韓国戒厳令とクリプト、そしてAIエージェント×クリプトの時代。
今週は、ビットコインが10万ドルを突破したことで改めて、ビットコインが持つ「価値の保存」としての価値にも注目が集まっている中、韓国で大統領による戒厳令が発令され、6時間で議会によって解除されるという事があった。
このような国家的な緊急時に、投資家がどのような心理になるかを考えながら、CEX(中央集権取引所)とDEXやセルフカストディとの違いについて考えるきっかけにもなる事件であったように思う。
また、AIエージェントが2025年の大きなトピックとして語られ始めている。今回はそんな話を中心にまとめていきたい。
1.危機時にビットコインは上がる?下がる?
戒厳令発表のなか、韓国でビットコインとXRPが急落
https://decrypt.co/294545/bitcoin-xrp-prices-plunge-south-korea-martial-law
戒厳令発令によって、UPbit(韓国の取引所)でビットコインが33%急落したという話題。ビットコインは価値が希釈しない資産として、通常は法定通貨の危機時には価値が上がるというケースが多いはずだ。
例えばキプロスの危機時(2013年)には逃避資産としての価値が注目され、ビットコインが急騰したことを覚えている方もいるだろう。
では、今回なぜビットコインが急落したのか。これにはいくつかの要因が考えられる。まずは、投資家が中央集権取引所に資産を預けていたということだ。戒厳令によって、取引所自体が強制的に閉鎖に追い込まれたらどうなるか。そう想定した投資家もいたかもしれない。また、もう一つは、手元で使えるお金を確保しておきたいという心理が働いたという点だ。ビットコインはあくまで資産形成として投資している人が多いものであり、日常の決済で使われるものではない。だからこそ、危機時に手元に現金を多く持っておきたいという心理からビットコインを取引所から引き上げる動きにつながったのかもしれないという点だ。
国家的な有事に際し、中央集権的な組織の信頼が揺らぐのはよくあることであり、銀行ですら安心できないのは過去様々な国家危機の事例でも分かるのではないだろうか。これは暗号資産取引所でも同じだ。だからこそ、重要なのはビットコインを買うか買わないかということではなく、それが管理されているもの(カストディ)か、自身で管理しているもの(セルフカストディ)かということだ。
今回の件を契機に改めて暗号資産を自身で管理するということの重要性に気付いた人も多いかもしれないし、そういった自己管理したいという人のための、より安全で使いやすいソリューションもこれから必要となってくるはずだ。
2.予測市場とAIエージェント
暗号通貨予測市場向けの自律型AIエージェントが登場
https://decrypt.co/294950/polytrader-ai-just-launched-autonomous-agent-prediction-markets
AIエージェントが注目されている。AIエージェントとは、人間が指示を出さなくても、与えられた目標に向かって自律的に判断・行動できる人工知能(AI)システムのことだ。
この自律的に判断・行動できるというところの「行動」に暗号資産での決済というのが入ることで、経済活動の主体となるようなAIエージェントが可能になる。クリプト×AIエージェントは、新たな経済圏を自力で構築できる可能性のあるものとして、様々な取り組みがなされている。
AIエージェントが自身のトークンを発行してその時価総額を上げていくといったものもあれば、AIエージェントが様々な市場に参加するというケースもある。
今回の記事は、その中でも予測市場の中に入ってトレードを行うAIエージェントが登場したという記事だ。
予測市場は、ある事項に対しそれを予測することで予測が当たれば報酬があり、外れたら掛け金が没収されるというギャンブルの要素もあるものだ。ただ、ただのギャンブルではなく、自ら掛け金を賭けて予測するために、より精度の高い予測ができる仕組みとして注目されている。
予測市場も情報戦だ。あらゆる情報源に基づいてそれを分析し将来予測を行い、当たる確率の高い方に賭けていく。これはAIエージェントとしても行うことがある程度可能であり、今回はそんなAIエージェントが、予測市場に参入することによって、予測市場が持つ価格設定の誤り、情報のギャップ、流動性の低さといった課題を解決できる可能性があり注目されている。
3.もっと発展させたAIエージェントだけの予測市場の可能性
上記はPolymarket等の既存の予測市場に対し、AIエージェントが参加するという形だったが、もっと発展させた大胆な仮説を考えてみたい。それが、AIエージェントだけが参加する予測市場の可能性だ。
これは、予測市場がギャンブルであり、各国のギャンブル規制にどうしても対応せざるを得ないという点を解決する方法として、より予測市場の予測の面にフォーカスした事業として考えられる。
AIエージェントが予測市場で自ら予測に賭ける。AIエージェントには、自身の持ち分のトークンをより増やすことが命題として与えられており、その命題にとって合理的な判断を下すように指定されている。そしてこういったAIエージェントが多様な情報ソースからの情報を取得しながら予測をしていく。
予測市場は人間がやっていないという点で、既にギャンブルではない。人間はあくまで予測のためのお題を出すために課金し、AIエージェントを育てるといった点に資金を投じ、それぞれ正確な予測という結果に対する報酬を貰う仕組みだ。
人間が予測市場に参入する場合に、掛け金が減るというケースを除くことでギャンブル規制から外れることは出来るが、どうしても資金が減るというプレッシャーが無くなることで予測精度が落ちる可能性がある。
しかし、AIエージェントは、心理的なプレッシャーというのは無い中でも、損失を出してはいけないという指令は忠実に守るように指定できる。
これによって、人間にとってギャンブル市場ではない予測市場であっても、同様の精度の予測を導き出せる可能性があるかもしれない。
4.NFTが持つ機能と役割をもう一度考える
ナイキ傘下のNFTプロジェクトがサービス終了へ 村上隆やレクサスともコラボ
https://www.fashionsnap.com/article/2024-12-03/nike-rtfkt-close/
RTFKTが2025年1月にサービス終了すると発表した。2020年に設立され、バーチャルスニーカーの発売後、NIKEによる買収、その後の様々なブランドとのコラボなどを積極的に行ってきた。
サービス終了の理由については詳しく語られていないのでここからは筆者の推測になることをお許し願いたい。
2020年当初は、NFTというのは一種の新しいフォーマットに映っていたと思う。それはNFTという形式にIPを乗せて出せば、NFTとして売れる。私たちはそういう風に感じていた。
しかし、NFTはフォーマットではなかった。その点PFPはフォーマットだったと思う。プロフィール写真として利用するという共通のユーティリティを持つ製品群として成り立っていたからだ。
これを私たちはPFPが売れていると認識せずに、NFTが売れていると認識してしまったことに失敗の原因があったのではないかと感じている。PFPが売れたからNFTが売れたと勘違いしてしまったら、NFTを出せば売れるとなってしまう。売れていたのはPFPなのにだ。
NFTは、もっと低レイヤーの商品を構成する素材の一つと考えた方が良いのかもしれない。だからこそ、その素材であるNFTの上に、もう一つ何か共通のフォーマットを作る必要があって、そのフォーマットをうまく市場に浸透させなければならなかった。
何度も事例で上げているTripleSの事例などは、NFTに「Objekt」というフォトカード型の商品というフォーマットをかぶせて、ユーザーはObjektを買うという感覚にさせたからこそ、安定的な売上を立てることができていると言えるのではないだろうか。彼らが「NFTカード」みたいな感じで言っていたら本当にそれが売れていたかどうか分からない。NFTって何?みたいになっていたかもしれない。
NFTの効用が無駄だったわけではない。そのNFTの効用をうまく使いながら、このNFTの上のレイヤーにもう一つ共通の規格やフォーマットを作り、その消費や所有を習慣化していくことで新しい市場がまだ開けるはずだ。
RTFKTの旅路は終了を迎えたが、NFTは死んではいない。今後も新しいフォーマットがNFTの上に乗り、それが広く支持され大きなマーケットを形成していく未来は十分にありうるはずだ。そこに期待したい。
5.まとめ
今回も様々な出来事があったが、やはり、2025年はクリプトのより本質的な面をベースにした新しいユーザー体験が生まれる年になるだろう。私たちもその中で貢献できるようにアイデアを出していきたい。その他のニュースもあるのでぜひ動画も御覧いただきたい。