今回は、新しいニュースというよりも、最近よくリリースなどでも見かける、NFT×地方創生、NFT×配布、NFT×推し活のようなユースケースについて感じる違和感について、それを批判するのではなく、どうすればその違和感を払拭できるのかについて考察していきたい。
今週のニュースから
男木島で開催の人気ゲームイベント 約700人が限定NFTをダウンロード 香川
https://news.ksb.co.jp/article/15523168
村上信五、AIやNFTへの考えを語る「本当に使い方」「きちんと使う側が理解すれば」
https://encount.press/archives/710563/
日本政府観光局、「万博 × 観光」でNFT水墨画アートを発行、万博デジタルウォレットと連携
https://www.travelvoice.jp/20241126-156711
Web3技術でイベント体験をアップデート。『Snapshot』β版がサービス開始
https://news.yahoo.co.jp/articles/d98c105d5eafb7e258864f3e0de71ce967127b21
上記のようなリリースが出されて、こういった事例は毎週のように全国各地で行われている。今回はこの個別の事例というよりも、もう少し大きな枠でNFTをどう施策に活かしていくかをいくつかのテーマで紐解いていきたい。
1.ユーザーにとってどういったメリットがあるのか
まずは根本的なテーマから。これは先日Xでも言及したのだが、NFT配布施策というのを企画した起点が「NFTを配布することで”企業が”マーケティングできる」というケースだ。もちろん、ユーザーのことを考えていないというわけではないはずだが、どうしてもNFTを配布してユーザーに持たせることで、後で企業がマーケティングに使えるみたいな発想だと、ユーザーの体験が忘れられがちだ。
トークングラフマーケティングの危険性について
https://x.com/akihisa_ishida/status/1862288319360733391
だからこそ、もう少し、ユーザーがどういった体験を「やりたい、面白そう、参加したい」と思うのかどうか。その点にフォーカスした施策を行うことが重要だ。しかし、そうすると、「そもそもNFTじゃない方が良いんじゃない?」という結論に至るケースもある。
2.技術の体験のグルグル思考法
これはほとんどの事業者が経験したことだと思うが、この場合の最適なソリューションは、プロダクト側からとユーザー側からの発想を往復させることだ。プロダクト起点で発想する、でもそれはユーザーにとってはあまり付加価値を感じないかもと感じる。では付加価値を感じる体験は何かを発想する、さらにそれをプロダクトとしてどう実現できるか考えるというプロセスを繰り返していくという手法だ。
これによって、技術としてのブロックチェーンが提供している本質的なポイントにたどり着くことができるし、その本質を見失わない形で施策を行うことで、ブレない施策を行うことができる。
当社での事業創出支援でもまさにこの両側の視点から徹底的にすり合わせしていくという作業によって、全員が明確に「なぜNFTなのか?」を腹落ちするといったケースも多く。そうするともっと自信を持ってNFTの施策を行うことができるようになる。
3.NFTは素材であり、その上に「型」を作る必要がある。
NFTに関する違和感は、NFTというものそのものが何かの一つのユーティリティを持つプロダクトのように見えてしまうことだ。実際にはNFTは単なる素材であり、紙とかプラスチックとか、鉄みたいなものと考えた方が良い。その上で、例えばプラスチックであればそれを使って「クリアファイル」とか「アクスタ」といった型を作り、その型にIPが乗ることで一つの商品が出来上がる。
このプロセスはNFTであっても変わらないはずで、NFTそのものはあくまで唯一のものを生成するための要素であって、この要素になんらかの型を作ることによって、ユーザーが「これを買っても良い」と思ってもらえるようなものになるはずだ。
例えばデジタル住民票といったものもその一つだろう。NFTではなくあくまで「住民票」という型を売っているのだから、ユーザーにとって自分が何を買っているのかが明確で分かりやすい。
4.しかし、デジタルで型を表現するのはとても難しい
しかし、理想はそうなのかもしれないが、デジタルで型を表現するのはとても難しい。実際にデジタル住民票一つとってみても、それぞれ発行の方法やアカウントの持たせ方、データがどのチェーンに乗っているかが事業者毎に違うといったことが起こり、それぞれを一つの「デジタル住民票」というくくりでまとめるというのが困難な状況だ。
これは、各社が「わが社のソリューションこそが、デファクトスタンダードになるのである」と張り切っているからであり、そのこと自体は全然間違いではなく、企業にとって合理的な行動だ。ただ、この合理的な行動がユーザーの体験に分断を生んでいるというのは、なにもNFTばかりではない。
最近だとイーサリアムにおけるL2のシーケンサーの課題なども同様に、それぞれが合理的な行動をした結果、流動性に分断が起きて、ユーザーの体験を妨げているというような状況が起こっている。
フィジカルな物は成果物が「自然物」であるため、誰が作ろうとプラスチックはプラスチックだし、紙は紙だ。なので、例えばアクリルスタンドのメーカーが50社あったとしても、ユーザーは「アクリルスタンド」というカテゴリーの商品としてそのすべてを一カ所に保管できる。デジタルではこの体験が難しいのだ。
5.解決の一つはサンドボックス型にすること
各社の施策を全部まとめあげるというのは現状難しいのかもしれない。であれば、一旦自社のコミュニティ内において、共通の型を作って、それを「文化・カルチャー」として定着させていくというのが方法としては分かりやすい。
例えば韓国芸能事務所のModhausが展開しているCosmoアプリなどはその典型だ。あくまで特定アーティストのファン向けにそのアーティストのグッズとしてのNFTフォトカードを販売していて、既に5億円近い売上を上げている。
彼らはまさにそのアーティストのファンに対し「フォトカードをデジタルで買う」「トークンで投票する」というのを習慣化させ、一種のカルチャーにしている点がその成功の要因の一つだ。
NFTというと他社との連携やコンポーザビリティといったNFTが持っているとされるいわば喧伝された機能に拘るあまり、結果的にユーザーの体験をわかりにくくしているケースもあるかもしれない。だからこそ、一旦閉じられた世界の中での快適なデジタル体験を提供することにフォーカスするといったことで、事業としても成り立つ仕組みを作ることができていると言える。
6.まとめ
2021年ころに良く言われたNFTの良さみたいなところを一度ゼロリセットした上で、ブロックチェーンに記録するという点やウォレットで自己所有ができるという点などの体験価値を再定義し、ユーザーの体験を中心としたアプリケーションを展開していき、その中でなぜNFTかというのをみいだしていく。
NFTでしかできないことは確かにあるし、オンチェーンデータという公証機能が果たすことのできる効用もあるはずだ。私たちは今一度、NFTで何ができるのか。そしてそれが地方創生や地域活性化、コミュニティの醸成などにどのように効果を発揮できるのかを考え、実践していかなければならない。
そして、始める、企画するというアナウンスだけでなく、「どのような結果になった、どのような成果を得た」といったレトロアクティブな評価にも注目し、その効果の検証をしていかなければならないし、その成功体験こそが、ブロックチェーン技術の浸透に大きな役割を果たすはずだ。
7.今週のSDG3
今週もグローバルのニュースソースから特に事業開発にまつわる様々な話題を取り上げています。ぜひこちらも御覧ください。